離魂病1

 鶯谷の駅前はいかがわしいネオンで飾られたホテルが軒をつらねています。
「そんなホテルばっかりね」
 千早はそう言って押し黙ってしまいました。ひょっとすると、こういうところでべらべら感想を言うのははしたないという意識があるのかもしれません。
 鶯谷がそういうところだということは、ずいぶん前から知っていました。しかし、来る機会がなかった。縁がなかったということでしょう。
 こういうホテルに泊まるカップルの例にもれず、わたしたちはセックスをしました。とはいえ、それが目的でここに来たのではありません。こんなホテルどこにだってあるし、千早がいるかぎりセックスはできるだろう。
 鶯谷に来たのは、かつてここが根岸の里と呼ばれた風光明媚な場所、自然の趣が美しいところとして有名だったことを知ったからです。
「鶯谷の住所は根岸っていうんだよ。大きな商家とかさ、お金持ちが隠居するというと、別荘を根岸につくったらしいよ」
 ラブホテル街を抜けると、そのころのおもかげが残っているという。自分はむしろ、それを見たいと思ってここに足を運んだのです。

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