1 鶯谷
鶯谷の駅前はいかがわしいネオンで飾られたホテルが軒をつらねています。 「そんなホテルばっかりね」 結衣はそう言うと、押し黙ってしまいました。ひょっとすると、こういうところでべらべら感想を言うのははしたないという意識があったのかもしれません。 わたしと結衣はビルディングの間に蛇のように張りめぐらされた路地をめぐり、今夜の宿を物色しました。同じような男女に何度も行き会いました。どいつもこいつもこれからセックスするんだよ。そう結衣に話しかけようかとも考えましたがやめました。ここに来る男女がセックスを目的にしているなんて当たり前だ。 「ほんと、そんなホテルばっかりね」 結衣はもう一度、そう言いました。 「でもね、こんなホテルどこにだってあるだろう? めずらしくないし、ここに来なきゃならない理由なんてなかったんだ」 「以前はなかった。……今はあるってことね」 そうだ。 「このあたりはおもしろいんだよ。駅名は鶯谷だけど、地名じゃない。鶯谷なんて住所はない。根岸っていうんだよ」 「どうして鶯谷っていうの?」 わたしは答えました。 「そりゃ、そっちのほうが印象ぶかいからだろう」 あながちそれがはずれてはいないんじゃないかと思われるのは、このあたりが風俗産業のメッカでもあるからです。ラブホテルが大量にあれば、そこで営業するホテトル嬢は当然のようにいる。町の辻々に立っている女性もすくなくはありません。また、このあたりは高級ソープが立ち並ぶ吉原にほど近いため、駅前のロータリーには客待ちをするタクシーが何台もつらなっています。 「ここはフーゾクのキーステーションなんだ。そういう場所には、春の鳥の名前のほうがふさわしいじゃないか」 不思議なことに、そういうとあたりが暖かくなってくるような気がするのです。 「でも、おれの狙いは根岸なのさ」 結衣は笑いながらわたしの口ぶりをマネしました。実際にそのとおりだが、わたしはあえて同意しませんでした。 「おれの狙いは、結衣とセックスすることさ」